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甲状腺機能低下症

概要

体全体の新陳代謝を促す甲状腺ホルモンが、何らかの原因によって不足している状態をいいます。甲状腺ホルモンは新陳代謝を促進するほかにも、脳や胃腸の活性化、体温の調節などの役割があるため、分泌量が減少するこの病気では、疲労感、むくみ、寒がり、便秘、体重増加、脱毛といった症状が引き起こされるようになります。放置して重症化すると、心不全や意識障害を引き起こすケースもあるため注意が必要です。また、甲状腺ホルモンは卵子の成熟や子どもの成長にも必要なホルモンであるため、甲状腺機能低下症を発症すると生理不順や不妊、小児期の成長・発達障害がみられることがあります。女性に多くみられ、40歳以降の女性の約1%が発症するといわれています。

原因

甲状腺自体の働きが低下することで起こる「原発性甲状腺機能低下症」と、甲状腺をコントロールしている甲状腺刺激ホルモンの分泌が少なくなって起こる「中枢性(続発性)甲状腺機能低下症」があります。原発性甲状腺機能低下症の原因で最も多いのは、慢性的な炎症が生じることで徐々に甲状腺が破壊されていく“慢性甲状腺炎(橋本病)”です。成人になってから発症するケースが多いですが、先天性のものはクレチン症と呼ばれます。また、ウイルス感染による“亜急性甲状腺炎”や分娩後の自己免疫異常による“無痛性甲状腺炎”など、甲状腺に炎症が生じる病気によって一時的に甲状腺の機能が低下することもあります。そのほか、甲状腺への放射線治療や、慢性的なヨウ素不足、抗がん剤や不整脈の薬、インターフェロンなどの薬物による影響や、悪性リンパ腫、アミロイドーシスなどの甲状腺浸潤性病変なども発症の要因になるとされています。中枢性(続発性)甲状腺機能低下症は、下垂体炎や下垂体卒中などにより、下垂体に異常が生じ、甲状腺刺激ホルモンの産生量が減少することが原因になります。

症状

甲状腺ホルモンは全身の代謝を活性化する働きがあります。そのため、そのホルモンの分泌が低下している甲状腺機能低下症では、全身の器官や精神的な活動性が低下し、身体的・精神的なさまざまな症状を引き起こします。身体的症状としては、倦怠感、発汗の低下、食欲不振、むくみ、寒がり、体重増加、脱毛、便秘、皮膚の乾燥、生理不順などが挙げられます。一方、精神的症状としては、抑うつ気分、眠気、記憶力の低下、無気力感、動作緩慢などがみられます。甲状腺機能低下症は軽度な場合、ほとんど自覚症状はありません。しかし、重症化すると意識障害を引き起こす“粘液水腫性昏睡ねんえきすいしゅせいこんすい”と呼ばれる状態に進行したり、心臓の周りに水が溜まる心不全など重篤な合併症を引き起こしたりすることもあるため注意が必要です。

検査・診断

まず、血液検査で甲状腺ホルモンと甲状腺刺激ホルモンを調べ、甲状腺ホルモンの値が正常よりも低ければ甲状腺機能低下症と診断されます。甲状腺ホルモン値は正常でも甲状腺刺激ホルモンが高い場合は潜在性甲状腺機能低下症の可能性があります。慢性甲状腺炎(橋本病)による甲状腺機能低下が疑われる場合は、抗サイログロブリン抗体や抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体など、本症を発症すると産生されるようになるタンパク質の有無を調べる検査が行われることもあります。甲状腺ホルモンが低い場合には血中コレステロール値や中性脂肪が高くなりやすく、放置すると動脈硬化が進行し心疾患のリスクが高くなるので注意が必要です。超音波検査で甲状腺の大きさや腫瘍性病変の合併の有無を確認することも重要です。その他、中枢性(続発性)甲状腺機能低下症が疑われる場合は、下垂体の器質的な異常の有無を調べるために頭部CT、MRI検査などを行うことがあります。

治療

不足している甲状腺ホルモンを補充するための薬物療法が主体となります。最も多い原発性甲状腺機能低下症の場合は、まず一過性のものか慢性のものかを判断します。一過性甲状腺機能低下症で症状が軽度のものであれば特に治療の必要はありませんが、症状が強く現れている場合は数ヶ月間甲状腺ホルモン薬を服用することもあります。またヨウ素の過剰摂取が原因と判断された場合は、ヨウ素の摂取制限をすることで甲状腺の機能が回復することもあります。慢性、持続性の甲状腺機能低下症では、甲状腺ホルモン薬の内服を継続的に行うことになりますが、心疾患など持病がある患者や高齢者の場合は内服量は少量から開始し調整しながら治療を行っていきます。潜在性甲状腺機能低下症の場合は(甲状腺ホルモンは正常に保たれているため)、強い症状があったり脂質異常が認められたりすれば内服薬による治療を考慮しますが、無症状の場合は定期的に検査を行い経過をみることになります。また、妊娠中または妊娠を希望する女性が甲状腺機能低下症の場合は、速やかに補充療法を開始します。潜在性甲状腺機能低下症においても妊娠による甲状腺ホルモン必要量の増加をふまえて補充療法を行います。 

予防/治療後の注意

甲状腺機能低下症のはっきりした予防方法は現在のところ確立していません。日本では、健康な人でも1割程度は潜在的に甲状腺機能が低下した状態であることが分かっています。海藻や昆布のサプリメントなどヨウ素が含まれている食品を多く摂りすぎると、甲状腺機能低下症が悪化するおそれがあるため摂りすぎには注意が必要であるとされています。妊娠や出産を契機に機能低下が顕著化することがあるため、気になる症状がある場合はできるだけ早めに病院を受診してください。また、甲状腺ホルモン薬による補充療法は長く継続する必要がある場合が多いため、定期的な検査と補充量の調整が重要です。

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